体は疲れても、精神はゆったりの森の国

 昨年秋、松野町の津村さんに案内され森の国ホテルを訪れた。 ホテルの玄関近くに野生の猿の親子がきょとんとして居る。聞くと朝などは窓のガラスを叩き客を驚かすらしい。自然がたっぷりある、これはいい。友人の男鹿、土屋ちゃんは自然が好きだから、誘えばきっと来ると思ったところから今回の企画が始まった。
 
 男鹿ちゃんは天才ちるどれんの審査にくるからちょうどいい。土屋ちゃんは松山に行ってのんびりしたいよ、と日頃からよく言っていたからこれ幸いと誘い、ついでに講演まで依頼した。 当日は20数名の会員と国際アートの学生さん3名、松野町の方4名が参加の懇親会から始まった。ふつう懇親会は講演が終わってからだが今回はその逆で、まずは酒も入り盛り上がってから「舞台の装置、まちの装置」と題した土屋ちゃんの講演の始まりである。
 
 彼は1998年、長野オリンピックの仕事をした後、暫くして劇団四季を辞め、現在はフリーで活躍する舞台美術家だ。『鹿鳴館』の美術は歴史に積層された文化の層を一枚一枚剥がしながら深い仕事をしている、土屋ちゃんらしさが良く分かる。『千の風になって』の作曲家、新井満さんが昨年「びんさん、土屋さんは凄いね」といった意味が「なるほど」と理解できた。 また『となりのトトロ』はじめ多くのジブリ作品で美しい背景を描く男鹿ちゃんは若い人達が離さない。それはそうだろう、子供の頃魅了されたジブリアニメの美術監督が目の前にいるのだから。なんと朝4時まで無口な彼が学生達に淡々と語っていた。寝不足の朝、彼は「熱心な若者がいるからいいね」とにこやかに話し、早朝から水の景色を取材していた。
 
 身近にはない仕事や質の高い仕事をしている人と出会う機会は地方ではそうはない。デザイナーとかカメラマンとか自分の仕事に関係なく本物と感じる人との出会いは大事であり、それは若い時期ほどいい。体験こそが自分を磨く刺激となり、成長を促してくれる。そういう意味からも今回の森の国で過ごした時間は大切な意義があった。
 
 帰りの車中で土屋ちゃんが「体はのんびりできなかったけど、精神がゆったり出来たよ」と笑って言った言葉が2日間の全てを語っていた。

EDA会長 山内敏功